前回の続きです。
導入に際しての実践ポイント
Q1:従業員個人は、どこで買える?また、誰に相談すべき?
- 購入先: 生脈散をベースにした市販製品「麦味参顆粒」は、第2類医薬品として全国の漢方相談薬局や一部の保険調剤薬局で購入できます。
インターネット通販でも取り扱いがありますが、はじめての方は店頭で専門家と相談した上で購入するのが安心です。 - 相談先: 購入前に、薬剤師や国際中医専門員など東洋医学の知識を持つ専門家に相談することを推奨します。
服用の可否、量やタイミングの目安、既存の疾患や薬との兼ね合いなど、体質に応じた適切なアドバイスが得られます。 - 注意点: 高血圧や心臓疾患のある方、妊娠中・授乳中の方、現在ほかの薬を服用中の方は、主治医または産業医への相談が必要です。
漢方薬といえども、体に影響を及ぼす「薬」であることを念頭に置きましょう。
Q2:健康保険は使える?
- 保険適用の可否: 「麦味参顆粒」は市販薬として販売されており、健康保険の対象外となります。
一方で、医療機関を通して処方される類似の漢方製剤は、保険適用となる可能性があります。
企業内で導入を検討する場合は、産業医や提携医療機関と連携し、保険内処方の選択肢を確認しておくと良いでしょう。 - 費用の目安: 麦味参顆粒は、1箱60包で約10,000円前後(1日2包で1か月分相当)が一般的な価格帯です。
企業が福利厚生として導入する際には、以下のようなコスト圧縮も検討できます。 - 該当する従業員向けに希望制で支給する。
その際、月単位での人数予測に基づき発注する。 - 漢方相談薬局と連携し、まとめ買いによる卸値交渉を行う。
- 一部従業員負担での補助制度を構築する。
Q3:健康経営の視点から、企業での導入は可能?
はい、導入は十分可能です。
特に、夏季の従業員の健康維持を目的として漢方薬の使用を促す取り組みは、健康経営優良法人認定の複数の評価項目にまたがって高評価を得る可能性があります。
主な評価項目と対応する導入施策例と記述の際のポイントは、次の通りです。
健康経営の具体的な推進計画
<導入施策例>
- 夏季における体調不良や熱中症の予防を目的に、漢方薬(麦味参顆粒など)の福利厚生支給制度を設け、希望する従業員に一定数を支給する。
- あわせて、中医学の知見を取り入れた体調管理セミナーを開催する。
講師として国際中医専門員や薬剤師を社外より招聘し、「未病」や「気陰両虚」といった概念を理解したうえで対策できる環境を整備する。 - 社内ポータルサイトやイントラネットにて、セルフチェックリストや服用方法ガイドを配信し、従業員の主体的なケアを支援する。
<記述ポイント>
「中医学の知見を用いて未病段階の早期ケアを実施し、従業員のパフォーマンス維持と欠勤予防を目的とした漢方活用を計画的に展開している」など、目的と方法を明確に記述すると評価されやすくなります。
保健指導の実施に関する取り組み
<導入施策例>
- 産業医との個別健康相談の際に、気陰両虚の傾向が見られる従業員に対して、麦味参顆粒などの適応を判断し、使用を提案する。
- 体質や既往症に関するヒアリングを通じた個別アドバイスの実施および、服用歴の記録管理を行い、継続的な健康指導に活用する。
- 必要に応じて、漢方薬局と連携し、購入支援や試飲イベントも実施する。
<記述ポイント>
「産業医・薬剤師との連携体制」「一律的な施策ではなく個別性のある対応」など、指導の丁寧さと専門性を具体的にアピールしましょう。
食生活の改善に向けた取り組み
<導入施策例>
- 社員食堂での夏季限定の薬膳スープ(麦門冬・五味子入り)や五味子茶の提供を行う。
また、味の工夫と中医学の背景解説を併せて提供し、興味を引きつつ実践に促す。 - 「生脈散に学ぶ夏の食養生」といった形で、食養生をテーマとしたミニポスター掲示やレシピカード配布を実施し、社内啓発を強化する。
<記述ポイント>
「特定の症状や季節の体調変化に合わせてメニューを設計している」「教育的視点も加えて行動変容を促している」といった背景も添えると評価が高まります。
運動機会の増進に向けた取り組み
<導入施策例>
- 夏季の熱中症リスクを踏まえ、ラジオ体操・軽運動プログラム前後に麦味参顆粒を用いた補水タイミングを周知し、WBGT(暑さ指数)に応じた運動ガイドラインと組み合わせて活用する。
- 産業医の助言を得た上で、暑熱順化(体を暑さに慣れさせること)のための段階的運動強度の設定を実施する。
<記述ポイント>
単なる運動の提供だけでなく、「安全に継続するための体調ケア体制を併せて整備している」点を示すことが、熱中症への備えという文脈で効果的です。
感染症予防に関する取り組み
<導入施策例>
- 夏季の施策に限らず、主に冬季の施策として、補中益気湯や葛根湯といった免疫力を支える漢方の活用を紹介し、予防的な服用の考え方を社内に周知する。
- 食事面でも同様に、体を温める食材を使った薬膳メニューの導入や、風邪予防を意識した生姜スープ・棗(なつめ)茶などの提供も行う。
- 年間を通じて「季節別セルフケア小冊子」などの啓発資料を作成・配布し、従業員が生活習慣を見直すきっかけを提供する。
<記述ポイント>
「季節ごとにテーマを持ち、東洋医学の知見をもとに感染予防と体調維持に取り組んでいる」ことを示すと、独自性と継続性のある施策として認識されやすくなります。
まとめ
夏場の健康管理は、企業の生産性と従業員の安全を守るうえで極めて重要です。
東洋医学の知恵を活かし、「気」と「陰(潤い)」を補いながら、汗の出すぎを防ぐというアプローチは、現代の職場環境にもマッチします。
生脈散の活用は、熱中症対策として実用的であり、健康経営優良法人認定の評価にもつながる取り組みです。
この夏、漢方の力を企業の健康戦略に取り入れてみませんか?
山本 久
中小企業診断士
健康経営アドバイザー
漢方薬剤師(国際中医専門員)
参考文献
神戸中医学研究会『中医臨床のための中薬学』東洋学術出版社(2011年)
神戸中医学研究会『中医臨床のための方剤学』東洋学術出版社(2012年)