〜「制度」を「行動」に変える。
従業員の主体性と組織風土を育む実効的アプローチ〜
開催日: 2026年8月
1. はじめに
「『制度』を『行動』に変える」をテーマに「健康経営アップデート会議」が開催されました。
多くの企業で健康経営の制度整備やデータの見える化が進む一方、「形骸化している」「特定の参加者しか集まらない」「成果や行動変容につながっていない」という課題が依然として存在します。
本会議では、全8セッションを通して、制度を実効性のある「行動」や「組織文化」へと高めるための多様なアプローチが提示されました。
「制度」を「行動」に変える。健康経営アップデート会議
- 健康経営戦略をアップデートする。
~健康データを経営の指標に変える、人的資本経営の実践~ - 健康リスク管理をアップデートする。
~生活習慣改善から重症化対策まで、先手で守る健康管理の実践~ - 働く環境をアップデートする。
~組織の「健康状態」を見極め、対話と風土から職場を変える設計法~ - 福利厚生をアップデートする。
~健康行動を促す、全国・多拠点まで「使われる制度」の設計法~ - 働き方支援をアップデートする。
~多様な従業員が働き続けられる、ライフステージ対応の職場づくり~ - 産業保健体制をアップデートする。
~多拠点・現場に届く、産業医連携と健康リスク管理の実践~ - メンタルヘルス対策をアップデートする。
~不調を見逃さない仕組みと、従業員が相談できる環境のつくり方~ - 復職支援をアップデートする。
~「復職したら終わり」をなくし、職場定着を支える支援設計~
https://rodina.co.jp/seminar/business-cs124/
2. 各セッションの要点と最新トピックス
わたしは保健師というベースがあるからか健康リスクに目が行きがちですが、実際には組織の状況や企業・経営者の要望等、個人への視点ではなく組織全体への対策なくして健康風土の醸成は難しいと感じます。
その中でも気になったトピックスをいくつかご報告します。
【データ活用と文化醸成】制度を形骸化させない課題設定と仕掛け
健康データがあっても、「何が重点課題で、どのような指標(KGI/KPI)を設定すべきか」で悩む企業は少なくありません。
その解決策として、専門的知見を持つ保健師を体制に組み込み、分析から課題設定、経営層・現場間の調整を担わせる手法の有効性が示されました。
また、情報発信(メールやポスター)のみの施策は従業員個人の意思決定に依存し、波及効果が薄れがちです。
「健康のための施策」という発想を捨て、「日常の行動や会話を出発点にする」アプローチが重要です。
職場の会話量と生産性の相関を踏まえ、施策内に「組織内のつながり」を組み込むことで、健康について気軽に話し合える組織風土(文化)が醸成されます。
【組織の質感と関係性】1on1と心理的安全性が生み出すパフォーマンス
「関係の質」の向上が、従業員のパフォーマンスや健康経営の鍵を握っています。
社外メンターの活用や1on1のAI解析を通じてメンターのスキルを高めることで、メンティーの「働きがい」が向上することが紹介されました。
1on1を単なる業務連絡ではなく、優秀層の「成果構造(暗黙知)」を抽出し共有する場として機能させることが、組織全体の信頼と心理的安全性の土壌を作ります。
【無関心層の巻き込み】管理職の役割と「POS(組織的支援の認知)」
運動施策などで無関心層が動かない背景には、現場リーダーの不在や会社に対する信頼不足があります。
ここで鍵を握るのが中間管理職です。
管理職が知覚する組織支援(POS) ➔ 部下が知覚する管理職支援(PSS) ➔ 従業員が知覚する組織支援(POS)
この連鎖を意識し、管理職を巻き込んだ施策を展開することが重要です。
充実した福利厚生サービスは、単なる手当を超えて「会社に支援されている」という感覚を醸成し、無関心層の行動を引き出す効果的な手段となります。
【働き方・メンタルヘルスの予防設計】
その他のセッションでも、現場実務に即した議論が展開されました。
- 働き方支援(ビジネスケアラー): 2030年に全体の約4割に達すると予測される仕事と介護の両立問題に対し、「制度はあるが不安が消えない」状態を払拭する実質的な支援が急務である。
- メンタルヘルス予防: 個人対応から「組織的予防」へのシフトが必要。顕在化した悩みを受け止める「社内窓口」と、潜在的・プライベートな悩みを拾い上げる「社外窓口(Smart相談室等)」を併用し、管理職自らが活用するなど地道な利用促進が職場改善につながる。
- 休復職支援: 復職支援(リワーク)を通じたスムーズな職場復帰体制の確立。
3. まとめ
制度を「行動」に変えるためには、単に個人へ健康行動を強いるのではなく、「指標の設計」や「管理職を介したPOSの向上」「日常行動に溶け込む仕掛け」といった現場を感じつつ全体を俯瞰した取り組みの設計や土壌づくりがより効果的です。
登壇された各企業からは種々のサービス紹介があり、必要に応じて活用することもできますが、制度の導入はゴールではなくスタートに過ぎないことを念頭におきつつ、健康経営ビジネス研究会の会員として、単にツールや制度を提案・運用するにとどまらず、企業ごとの組織風土や現場の目線に即した「行動変容を生み出す設計力」を磨いていく必要があると強く実感しました。
保健師 伊東千尋
健康経営エキスパートアドバイザー