気軽に始めた健康経営
ニッシンテクニス株式会社は、1954年設立の自動車部品製造業。
本社所在地の愛知県海部(あま)郡蟹江町は自動車関連企業の集積地でもあります。
今回は同社・総務部課長の森安可奈さんにお話をうかがいました。
当社が健康企業宣言を行ったのは2018年。加入する愛鉄連健康保険組合からの案内がきっかけでした。
当時の社長(現在は会長)が同健保の理事を務めていたこと、認定項目に実施済みの内容が多かったこともあり、宣言→取組開始のハードルは比較的低かったそうです。
「最初の年は宣言をしただけでした。その後『あれ、認定というものがあるんだ。肩書がもらえるのはいいよね』と気付き、翌2019年に健康経営優良法人認定(中小規模法人部門)を取得。さらに『大規模法人部門には<ホワイト500>というのがあるのか。ホワイト企業っていいな。中小企業でも取れるのかしら?』と思い、徐々に取組を充実させていきました。定期健康診断やストレスチェックは宣言の前から実施していたので『簡単だな』と思えたのが良かったかも知れません」
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ニッシンテクニス株式会社 総務部 課長 森安 可奈 さんと当社キャラ「ロックバニー」(会長夫人のお手製)
会社概要
| 項目 | 内容 |
| 会社名 | ニッシンテクニス株式会社 |
| 所在地 | 愛知県海部郡蟹江町南一丁目77番地 |
| 事業内容 | 自動車部品製造業 |
| 創業/設立 | 1954年5月 |
| 代表者 | 代表取締役 丹羽 陽 |
| 従業員数 | 89名 |
| 健康宣言 | 2018年 |
| 認定・表彰 | 健康経営優良法人 8年連続(2019年〜)/うちブライト500 3回(2023、2025、2026年) |
| 加入健保 | 愛鉄連健康保険組合 |

会長、社長を囲んで。
最初は手探り。でも楽しく!
森安さんは2018年の宣言当初から担当者として当社の健康経営に関わっています。
「もちろん私一人ではできません。当時の社長がサポート、というか二人三脚で手探りで進めて行きました。ブライト500に挑戦するあたりから現場は2名体制になり、いまは定期健診の周知、健診結果や従業員アンケートの集計などはパートさんにお手伝いいただいています。2名体制になったことで、取組の内容やスピードも格段に上がりました」
「現社長は先代とは異なるタイプの方ですが、健康経営に前向きなことに変わりありません。土台・流れができたので、今は社長に提案を行い、承認してもらった取組を予算・スケジュールの計画のもと、体系立てて進めています」
「2018年の開始時は、街中で見た取組や、健康経営のセミナーで学んだ内容を取り入れたりしていました。でも年数を重ねるうちに、情報共有や他社様を見ることが今後に繋がると気付きました。愛鉄連健保の機関誌に宣言企業名が載っているので、健保さんに『この会社を訪問したいのだけど?』と相談し、ご紹介いただいた企業さんの活動を実際に見て・聞いて学びました。当社にも訪問いただいています。他社と交流するのは楽しいですよ。『私たち何のために苦労してるんだろう(怒)』『あぁ、それわかるわかる!』みたいに励まし合う。取組に対しては従業員からいろいろな声が出てくるので、残念に思ったり寂しい時もあります。たまに涙することも(笑)。でも、それも貴重なご意見と受けとめられるようになったのは、仲間の存在があるからかも知れません。担当者が自分の会社の中で一人で悩むのではなく、周囲の助けを借りることは大事ではないでしょうか」
「最初は真似っこから。徐々に自社に合った内容や自社単体でできることに修正していく。『楽しそうだな』と思ったらやってみる。従業員からの声も聞きながら、小さく少しずつPDCAしています」
健診のご褒美はパン! ~ 食生活の取組
定期健診受診を促す一環として、当社は健診を受けたらパンがもらえる取組を2024年より始めました。

今日は人気NO.1、名古屋人大好き「あんバター」!
「定期健診は単に受けるだけでなく、正しい数値を知るために朝食抜きで受診もらいたい。ちょうど何か地域を巻き込んでやりたいなと考えていたので、私が好きな地元のパン屋『ブーランジェリークークー』さんに協力してもらい、健診後に軽食としてパンを提供することにしました。健診実施日は月曜日が多く、クークーさんは月曜定休なんですが、快く協力してくれています。(健康に配慮したパンなのですか?)いえいえ、健診を受けてくれたご褒美なので、おいしさ優先。カロリーは無視(笑)。『おいしい』の笑顔を大切にしています」
「当社が在る愛知県は味噌の食文化圏で味が濃いんです。うちも従業員の平均年齢が40代後半になり、高血圧の人が多いのが悩み。お昼に『ヘルシー弁当』を提供したかったので、給食サービスの会社を替えました。値段が折り合わなくて困りましたが、社長に相談したら気前よく費用補助額を上げてくれたので導入できました。最近は保健指導の対象になった人も『大盛りはちょっと控えようかな』とか考えるようになったみたいです」
「社内の飲料自販機にはカロリー表示をしています。簡単にできますからね。そうしたらベンダーさんが『うちが貼りましょうか?』と協力してくれるようになりました。サントリーさんには『特茶』を少しだけ価格を下げて提供してもらっています。コカ・コーラもありますよ。『コカ・コーラZERO』ですけどね。あまり厳しくし過ぎても続きませんから」
タイ工場でもラジオ体操! ~ 運動促進の取組 ~
「運動の取組はウォーキングイベント(歩数競争)から始めました。健保のアプリで歩数計測し、初回は賞金や歩数計など豪華賞品を揃え、『社長と歩数対決!』とか楽しめる要素も工夫。参加率は82%でした。4回目に景品を減らしたら参加率は57%に下がりましたが、地道に取組を続けた結果、いまは65%にまで回復しました。参加者全員の歩数を手集計したりと大変な面もありますが、『継続は力なり』ですね」

振付も覚えました!
「タイ工場は日本と同規模、80名います。うち日本人は4名です。日本人従業員は定期健診と、保健指導もリモートで実施しています。ウォーキングイベントにも参加してもらっています」
「現地従業員向け施策?うーん、特にやっていないですねぇ(ラジオ体操とかは?)あ、やっています!もはや当たり前にやっているので、取組だと気付きませんでした。体操の様子を動画で撮影し、タイ語の解説を付けて現地に送りました。タイの皆さんは日本語はわからなくても、音楽を覚えて身体を動かせるようになっています。日本では『本気のラジオ体操』を勉強し、事務スタッフも工場就業者もガチでやっています。最初のうちは任意参加にしていましたが、『運動は大事。それなら確実にやってもらわないと』ということで、就業時間内実施→全員参加に切り替えました。この取組は中日新聞さんに取り上げていただきました」

今日も歩く!2026年春イベント時の平均歩数は8,163歩でした。
しつこく言い続ける!~ 女性の健康 ~
当社は製造業ですが、従業員の3割は女性です。当社を訪問される他社からも『女性が多いんですね』とよく言われるそうです。
「50歳以上の従業員に対するがん検診の費用補助は以前から導入されていました。でも婦人科系のがん検診は自己負担、自分で手配する必要がありました。『何で女性だけお金も手間も掛けなくてはいけないの?』と会社に直訴したら、『何で女性だけ優遇しなくてはいけないの?』と逆に切り返されました。そこで、女性の健康に関する現状をデータ等を交えて説明し、『もはや女性の健康に取り組んでいないと社会的にもダメでしょ』と会社にしつこくプレッシャーを掛けて(笑)導入にこぎつけました」
会社の外に、地域に広げていく健康経営
森安さんは、他社との繋がりだけでなく、地域・行政との連携の重要性もお話しくださいました。
「当社単独で取り組んでも結果はすぐに出ません。従業員お一人お一人に委ねる部分も多いです。そして従業員が当社を卒業された後は、地域・行政にその方のサポートを担っていただく必要もあります」
「隣の津島市は取組が盛んです。『健康経営アワード』を取った企業さんもいます。なので、我が蟹江町にも何か取り組んで欲しいと思い、役場に企画書を持って行ったのですが『全然わかんない』と言われちゃいました(笑)。諦めずに津島保健所に持ち掛けたところ、動き始まったんですよ。2026年7月16日に第1回の会合がありました。8市町村・大学教授・スポーツセンター・保健所・労基署など、何らか関係ありそうな皆さんが集まり、『さて、どうする?』と(笑)」
「私も参加しました。悩みを共有したり、『健康宣言』の書き方教室だったり、最初は何でも良いと思うんです。お金を掛けずにできることはたくさんあるし、連携が進めば取組も加速します。まずは動いてみることが大事だと思います。動くと楽しいですしね」

第1回会合を終えてニッコリ(2026年7月16日)
今後の課題
当社の業績や人材戦略における健康経営の効果についても、森安さんにお尋ねしました。
「健康経営と業績の紐付は正直難しいです。自動車業界はEV化などの構造変化に直面しており、当社も一時業績が停滞しました。いまは回復傾向にありますが。(回復に転じるスピードが早かったのは、健康経営に基づく良好な企業風土があったからではないですか?)。そうだと良いですね」
「一方、人材・雇用においては確実に効果が出ています。新卒者を含め、定着率は上がっています。従業員アンケ―トでも『働きやすい』の評価は上向き。当社は外国人技能実習生も受け入れていますが、3人全員が『当社に残りたいです。どうすれば残れますか?』と言ってくれました。会社も意を汲んでくれて、特定技能に切り替え残ってもらうことができました。そうそう、外国人就労者の更新手続において、認定を取っていることで提出する書類が少なくて済みました。そこは狙いではなかったのに、結果助かりました」
「お取引先からは『ブライト500なんですか。凄いですね』と言っていただけるのですが、雇用市場においては未だ浸透していない気がします。大学のキャリアセンターや高校に求人票を持って行っても反応が今ひとつ。学生さんに説明すれば、彼らは『!』と気付いてくれるんですけどね」
中長期的な課題についてもお尋ねしました。
「従業員の平均年齢はどんどん上がります。最近気になっているのは、若年社員がメタボ傾向にあることですね。なので会社にインボディ測定器を買ってもらい、従業員に自らの健康状態を自覚してもらうようにしました。筋肉バランスも判るので、シニア社員の転倒防止などにも繋げられると期待しています。いまは賞金というニンジンをぶら下げて利用を促しているんですけど(笑)、習慣として定着すると良いなと思っています」

測定器に乗ってみたら高リスク者は年齢に関係ないことが判明!生活習慣の見直しに繋がった。
「いまの若い従業員には、30年40年選手としてがんばってもらう必要があります。採用においても、特に中小企業においては外国人も重要な人材。言葉や慣習の違いを乗り越え、彼らが働きやすい職場をつくる上でも健康経営はますます重要になると考えています。積極的に異文化コミュニケーションを取る、みたいなことも健康経営の延長線上にあると思うんですよね」
これから健康経営に挑む中小企業へ
最後に、まだ健康経営に取り組んでいない、もしくは取組に悩んでいる中小企業に向けて、森安さんにエールをお願いしました。
「自社だけでやろうとがんばらないでください。一人だと躓いて諦めてしまいかねません。行政や健保組合には様々なサポートがあります。他社も同じように悩んでいるので、情報交換で気づきを得て、自社に持ち帰るのが良いと思います。横の繋がりは大事。日本のあちこちに仲間が居ると心強いですよ」
「大抵の取組は良い結果に繋がります。『思っていたのと違うな』と感じたら軌道修正すればいいんです。やってみなければわからない。やってみたら何かが動くのは楽しい。ぜひ一緒にやりませんか?当社はSNSもやっていますので、お気軽にご連絡いただけると嬉しいです」

当社キャラ。ロックバニー、GEAR bee、ホルダックの3人。芸術大学出身の従業員にクリエイティブを発揮してもらった。
最後に
森安さんのお話をうかがい、地道に粘り強く取り組むことはもちろんですが、他社や外部機関との共創、壁にぶち当たった時にどうやったら突破できるかを考え行動すること、行動した結果何かが動く・変わるダイナミズムを楽しむ姿勢が大事だと感じました。
筆者自身がインタビューで元気をもらえました。ご協力に感謝申し上げます。
(取材・文/健康ビジネス研究会 檜山 敦子)