調査研究成果

健康診断に関する法令と産業医視点による課題

定例会の内容を一部ご紹介します

8月の定例会では、会員から発表を頂きました。そのうち産業医の坂本会員からの発表を、以下に一部を紹介させて頂きます。

各企業において健康経営の取り組みが行われています。健康経営を進めていく上で、健康診断の実施は特に重要な項目の一つであると考えられます。
今回は、健康診断に関連した法令等を確認しつつ、産業医として気になるポイントも一緒にご確認いただければと思います。
 

健康診断の実施のポイント

まず初めに、会社で行う健康診断は、法令で求められているだけではなく、働く一人ひとりの健康を確保していくために重要な取り組みです。その趣旨を理解して事業所の健康管理・健康経営を進めていきましょう。

さて、健康診断は労働安全衛生法第66条に「事業者は医師による健康診断を行わなければならない」と規定されており、1年以内に1回、定期的に実施します。行うべき健康診断項目は労働安全衛生規則第44条に決められています。

なお、医師が認めた際には省略できる健康診断項目がありますが、これには注意が必要です。例えば、若年の労働者には一律に健康診断項目を省略するなどの場合があるかもしれませんが、労働基準局からは、健康診断項目の省略を会社が一律に決めてはならないという通達が出されています(平成29年労働基準局長通達 基発0804第4号)。一律に健康診断項目を省略してはいけないことになっていますのでご注意ください。
 

健康情報の取り扱いのポイント

 そして健康診断は受けた後が大切です。そのため、事業者は健康診断の有所見者に再検査などの受診勧奨を行っていきます。この時に注意しておきたいことがあります。それは、健康診断結果は機微な情報のため、取扱い注意ということです。これを解決するためには、事業者は“健康情報取り扱い規定”を策定しておくと良いでしょう。

厚生労働省から、「事業場における労働者の健康情報等の取扱規定を策定するための手引き 」が出されています。各社において、健康情報取り扱い規定を作成し、それに基づいて受診勧奨を行っていくことが望ましいと考えられます。

なお、令和3年の日本全体の健康診断の有所見率は、58.7%であり、脂質に関する有所見率が最も高く(33%)、続いて、血圧(17.8%)、肝機能(16.6%)、血糖(12.5%)と続いていることも知っておきましょう。脂質(コレステロール)について、みなさまご自身の健康診断の結果は大丈夫でしょうか?
 
健康情報取り扱い規定
 

特定健康診査と特定保健指導を進めよう

生活習慣病対策は健康経営の取り組みにおいて重要です。

生活習慣病対策を進めることは、脳疾患や心臓疾患といった大きな病気の予防につながります。そのため、平成20年4月から生活習慣病有病者や予備群を減らすための健康診断と保健指導が、医療保険者の実施義務となっています。これは、高齢者の医療の確保に関する法律に基づいており、メタボ健診とも言われることがあります。

対象は、40歳以上75歳未満の医療保険加入者です。メタボ健診は、保健指導を必要とする者を抽出する健康診断(特定健康診査)と、生活習慣病のリスクに応じて行われる保健指導(特定保健指導)の2つから構成されています。

2020年の厚生労働省の報告では、特定健康診査の受診率がまだ高くないこと(対象者数約5,420万人に対して、受診者数約2,890万人(53.4%))や、特定保健指導が対象となっている約522万人のうち、終了者は約119万人(実施率22.7%)であると報告されており、課題であると考えられます。

https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000949759.pdf

特定健康診査と特定保健指導の枠組みについて、産業医として労働者の健康管理を進めている中で課題に感じている点があります。それは、医療機関で薬等による治療を受けている人は特定保健指導の対象者から原則として外れることになっていることです。

そのため、“薬を飲んでいるけど数値が悪い”という方々が見逃されている場合があります。生活習慣病の悪化を防ぐために、会社と健康保険組合、産業医・保健師、医療機関等が連携を行って、健康管理を進めていきましょう。

最後に

今回は銀の認定のうち、健康診断に関連する内容について、知識を確認いたしました。

健康経営を実現していくためには、個人の健康と会社全体の健康を守っていく必要があります。そのため、健康診断をうまく活用して、会社全体としても健康づくりを進めていきましょう。
そのためには、健康経営のアドバイスを精力的に行っている専門家や、産業医・保健師といった産業保健専門職に相談するなどして、事業場の健康経営に一緒に取り組んでいきましょう。

坂本宣明
産業医・労働衛生コンサルタント
健康経営エキスパートアドバイザー
健康ビジネス研究会・理事
ヘルスデザイン株式会社
https://health-d.co.jp


 

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