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ウォーキングが創造的思考に及ぼすポジティブな効果

ビジネスの最前線においてクリエイティブ・シンキング(創造的思考)、つまり「自由な発想や新しい視点により物事を考えること」が必要だと言われて久しいと思います。
これは、今までの既存の枠組みのなかで考えているだけでは、新たな社会環境の変化やニーズの多様化に対応することが難しくなってきたからだと言われているためです。

では、クリエイティブ・シンキングの能力を端的に向上させるには、なにが一番手っ取り早いのでしょうか?

答えは表題のとおりウォーキングなのですが、「ウォーキングがいかに創造的思考に効果的なのか」ということについて、スタンフォード大学の研究をご紹介しながらお話したいと思います。

参考とした論文のリンクはこちらです。
https://www.apa.org/pubs/journals/releases/xlm-a0036577.pdf

 

スタンフォード大学の研究報告

さて、いきなりではありますが、研究結果は次のようなものです。

●Four experiments demonstrate that walking boosts creative ideation in real time and shortly after.
(4つの実験により、ウォーキングが創造的なアイデアを即時に、またその直後に高めることが実証されました。)
●Walking opens the free flow of ideas, and it is a simple and robust solution to the goals of increasing creativity and increasing physical activity.
(ウォーキングはアイデアの自由な流れを開き、創造性の向上と身体活動の増加という目標に対して、シンプルで強固な解決策となることが示されました。)

この研究は、176名の被験者が屋内や屋外でウォーキングをしたり座って休息したりすることによって、創造性がどのように変化するのかということを明らかにしたものです。

結果を要約すると「ウォーキングは創造的な発想を向上させ、かつ身体活動を増加させるという点で非常にポジティブな効果が期待できる」とのことでした。「え?そんなことで創造性が向上するはずないだろ!」とつっこみを入れたくなる気持ちは十分理解することができます。
日々、産みの苦しみを感じながら創造的な活動を行っている方々にとっては、にわかに信じがたい結果であるからです。

しかし、ビジネスの偉人たちの「ウォーキング」を見てみると、あながち嘘だと断定することはできないでしょう。
実際、Appleのスティーブ・ジョブスやFacebookのマーク・ザッカーバーグ、Twitterのジャック・ドーシーなど、ビジネスにおいて著名な結果を残してきた偉大な創業者は、歩きながらミーティングを行う「ウォーキング・ミーティング」を好んで行っていました。

では、本当にウォーキングで創造性が増すのか?
この問いに答えることによって、あなたは今すぐにでもウォーキングをしたいと考えるようになるでしょう。
 

運動と創造的思考についての先行研究

さて、本題に入る前に、ある程度、運動や身体活動と創造的思考に対する先行研究を確認しつつ、スタンフォード大学の研究報告の背景を見ていきたいと思います。

まずは「なぜ、数ある運動のなかで、ウォーキングなのか」ということについて見ていきたいと思います。
運動と認知機能に関する先行研究はいくつか見られますが、それらは有酸素運動や無酸素運動に焦点をあてているものが多く、特に有酸素運動が認知の速度を増加させるということや記憶能力や創造性の向上につながることが多数報告されています。

ただし、先行研究では「30分程度のランニングのような有酸素運動が必要である」という言及がほとんどでしたので、スタンフォード大学の研究者は、より簡単な方法として「短時間のウォーキングでも創造性は向上するのか?」ということを明らかにしようとしました。
もしも、ランニングのような有酸素運動ではなく、ウォーキングのようなより低負荷な運動でも創造性が増すならば、日常生活においても取り入れやすいということになります。

では次に、創造的思考についての先行研究について見ていきたいと思います。
創造的思考とは、端的に言うと「発散的思考」と「収束的思考」のことを言います。
両者はビジネスの場においてよく用いられるブレインストーミングに必要な能力と捉えていただくとわかりやすいと思います。

発散的思考はとにかく「数」を重視し、ひたすらアイデアをひねり出すことに重きが置かれますが、収束的思考は発散的思考によりひねり出されたアイデアの共通点を見つけることを重視するものです。いうなれば「質」に重きが置かれるものであり、収束的思考は発散的思考よりも論理性が求められるという点で異なると理解していただくとわかりやすいと思います。

そして、当たり前の話ですが、そもそも創造的思考を測るモノサシがないと、それが向上したかどうかを判断することはできないので、それらを判断するためのモノサシとして一般的に広く用いられるものが次の2つのテストです。

•Guilford’s alternate uses test (Guilford, 1960)
•Barron’s symbolic equivalence test(Barron, 1963)

•Guilford’s alternate uses test
「発散的思考」を測るテストの代表的なもので、「与えられた言葉の持つ用途に対し、可能な限り多く想起することができるのかを測る」ものです。
例えば、レンガや靴、ペーパークリップという言葉に対し、それらの様々な用途(レンガであれば壁や暖炉、建材など)を思いつく限り回答することで測定します。

The Alternative Uses Test | Creative Huddle

•Barron’s symbolic equivalence test
「収束的思考」を測るテストであり、「与えられた言葉に対して象徴的なイメージを回答する」ものです。これは、例えば犬・猫・ネズミという言葉に対し、それらの共通点は「四足歩行の動物」と回答するものと捉えていただきたいと思います。

Symbolic Equivalence Test | Museum of Education

スタンフォード大学の研究報告は、先行研究で使われるこれら2つのモノサシを使用することにより「ウォーキングと創造的思考の関連」を客観的に評価しました。
 

ウォーキングは創造的思考を増加させるのか?

さて、先行研究から本題に戻って、「ウォーキングは創造的思考を増加させるのか?」ということについて、スタンフォード大学の研究報告の結果を見ていきたいと思います。

結論は「ウォーキングは座っているよりも創造性を高めることができた」とのことでした。
一方、創造性の中の「発散的思考」の向上は見られましたが、「収束的思考」の向上は見られなかったとのことでした。

また、「環境」は創造性の向上に影響するのか、ということについても言及しています。
周囲の景色が変わる屋外でのウォーキングを行うグループと車椅子で移動するグループを比較した結果、ウォーキングを行ったグループの創造性は車椅子のグループよりも創造性がより向上していました。
つまり、周囲の「環境」の創造性向上への影響は小さく、より影響の大きい要素はウォーキング(身体活動の増加)であるとのことでした。
このことから、ウォーキングは何か新しいアイデアを創造することにおいて、簡単かつ有用な方法であると言えるでしょう。

冒頭、ビジネスにおいて偉大な結果を残してきた創業者は、「ウォーキング・ミーティング」を好んで行っていたと言及しましたが、まさに、新しい何か(Something New)を生みだすのは机の上ではなかったのかもしれません。

これを健康経営の文脈に当てはめれば、健康の保持・増進のために行うウォーキングを創造性向上のために行うウォーキングにするということも「あり」なのではないでしょうか?
新規事業のアイデアを出したい、営業戦略を様々な視点から考えてみたい、業務効率化のヒントを得たいといったことに思い悩んでいる方は、一度「ウォーキング・ミーティング」を取り入れてみても良いかもしれません。

中小企業診断士/健康運動指導士
並木連太郎

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